INFO:
 どれだけ短い刃物でも、急所を刺されれば人は簡単に死んでしまう。  言葉も同じで、どれだけ軽い気持ちで言おうが、相手の急所に刺さってしまえば、簡単にその人は死んでしまう。  その日、親友の優花が死んだ。  私の家の近くのマンションに、救急車やパトカーが屯っていた。それを見た時から、嫌な気はしていた。  深夜なのにもかかわらず、私はサンダルを履いて、部屋着のまま、家を飛び出した。  現場に着くと、映画やドラマでしか見たことがない黄色いテープが張られていて、そのテープを乗り越えようとする人が何人かいた。  冷や汗が顬を伝った。  人混みから少し見えたあのローファーは間違いなく、彼女のものだったからだ。見間違えるはずがない。何度も目を擦った。暗いから、よく見えなくて、彼女のものに見えているのではと、現実から目を背けることに必死だった。  だが、間違いなく、そのローファーは彼女のものだった。  すり減った底、少し高い踵、そして月明かりを反射させるローファーの表面。丁寧な性格の彼女は、靴を磨くのを欠かさなかった。 「優花!」  野次馬の人々を掻き分け、最前まで行き、そう叫ぶ。  私の体は警察の人に抑えられて、私は泣くことしかできなかった。 「優花、優花は生きてますよね。」  泣き叫んで掠れた声で警察の人にそう聞く。 「…。」 「どうして何も言わないんですか。生きてますよね。優花、きっと生きてる。」 「ご友人ですか。」  他のお偉いさんのような警官がやってきて私にそう言った。 「はい。小学校からの友達で。優花、生きてますよね。」 「もう亡くなったよ。」  周りの音が一瞬消えた。呼吸もできなくて、声も出なかった。涙が止まらなかった。きっと、涙腺が壊れてしまったのだろう。 「これを。」  その警官は私に封筒を渡した。 「本当はこういうの、よくないんだけどね。」  遺書だった。 「読んでもいいですか。」  喉から震えた声が出る。 「秘密にしてくれるなら。」  封筒を開け、中から一枚の便箋を出す。  やはり涙腺が緩んでいるからだろうか、涙が止まらない。 「君がいてくれて、優花さんも少しは楽だったんじゃあないかな。」  そう言いながら蹲る私の背中を優しく撫でてくれた。